今年も残りわずか。寒い季節になってきましたね。この時期に増えてくるものに尿路結晶や尿路結石というものがあります。
これらは、尿路(腎臓・尿管・膀胱・尿道)にダメージを与えたり(炎症)、尿の通り道を塞いだり(閉塞)という悪さをします。
この記事では尿路結晶や尿路結石の中でも特に多いストラバイトについてお話しさせて頂きます。
目次
概要
ストラバイト(struvite)とは
どれも一緒で鉱物の一種です。鉱物と聞くと硬〜いイメージがしますがその通りです。「硬い何か」とイメージしておいて下さい。
ストラバイトの原材料
- リン酸
- アンモニア
- マグネシウム
リン酸とアンモニアとマグネシウムがくっ付いて作られます。(正確にはイオン結合ですがここではわかりやすくしておきます。)
ストラバイトが作られる条件
原材料であるリン酸とアンモニアとマグネシウムは正常な尿中にも含まれています。しかしリン酸とアンモニアとマグネシウムはただ存在しているだけで、くっ付くことはありません。
くっ付くには大きく以下の3つの条件(①濃度・②PH・③時間)が揃わないといけないのです。
- 濃度
- PH
- 時間
① 濃度(尿中にリン酸とアンモニアとマグネシウムが多く存在している)
小学校の理科の実験で、砂糖とか塩とかの結晶を作った時と同じです。
② PHが高い(アルカリ性である)
PH(ペーハーじゃなくて正しくはピーエイチって読むらしいですよ♪)が高い事も大切な条件です。
アンモニアがアンモニウムイオンという状態になる事でくっつき始めるのですが、その状態になるのにPHが高い、アルカリ性である必要があります。
③ 時間(長い間①と②の条件が続く)
正確に何時間とか何日とかそういう指標はないのですが、①と②が揃っていても短時間では作られません。
食事内容や生活リズムで偶然①濃度と②PHの条件が揃ったとしてもその程度ではストラバイトはできないという事です。
ストラバイト結晶?ストラバイト結石?
ストラバイトが集まって作られるものがストラバイト結晶。
さらにそのストラバイト結晶が集まって石のような大きさになるとストラバイト結石と言います。
大きさでいうと、
大きさの正確な境目はありませんが、
という感じです。
これらは本来尿の中にないものです。結晶になった段階から悪さを始めます。
病態
まずは尿路について説明させていただきます。
尿路とは
①腎臓で作られた尿は、②尿管を通って③膀胱に貯められ、④尿道を通って体外に出ます。この尿の通り道を尿路と言います。
尿路結石とは尿路に出来た結石を指します。
結晶・結石による炎症
尿路結石があるとその場所が傷付いて炎症が起こります。腎臓で起こる腎炎や膀胱で起こる膀胱炎などがよく聞く名前になりますね。もちろん、尿管や尿道でも炎症は起こります。
結晶・結石による閉塞
炎症が起きるとその部分が腫れます。また出血したりもします。これによってその部分の尿の通りが悪くなり、閉塞を起こします。
閉塞には不完全閉塞(通りが悪い状態)と完全閉塞(全く通らない)状態があります。もちろん後者の方が重度で緊急性も高くなります。
症状
尿路が傷つくと、出血して血尿が出たりします。尿路の違和感を解消したくて頻繁にトイレに行くようになりますが、量はそんなに出ない(少量頻回尿)ということが起こります。また気持ち悪いので陰部を舐める事も多いです。
また結晶が大量だったり結石の大きさになると尿路が塞がれる閉塞が起こります。詰まりやすいのは道が細くなる尿管と尿道です。こうなると尿が出せないので動物の具合が悪くなる(食欲不振・元気消失・嘔吐など)ことが多いです。
検査
前回お話したような症状が見られた場合、よく行われるのは尿検査、エコー検査、レントゲン検査、血液検査の4つです。
- 尿検査
- エコー検査
- レントゲン検査
- 血液検査
もちろん細かい事を言うともっと多いのですが、飼い主様が知っておかれて為になる範囲に絞りますね。
尿検査
欠かすことのできない検査です。通常は尿スティックと顕微鏡が使用されます。
尿スティック
これは出血の確認だったり(潜血反応)PH(アルカリ性とか)の確認をします。
顕微鏡
結晶が何なのかを確認します。獣医師が「ストライバイト性」と診断するのはここでストラバイト結晶を確認した時です。
この他、細菌や膀胱の細胞、出血した際に見られる赤血球などを見つけることも出来ます。
感染が疑われる場合は、尿を培養する事があります。(尿培養検査や薬剤感受性試験と言ったりします。)これにより菌の有無やそれらに効く薬剤のタイプがわかります。
エコー検査
膀胱や腎臓などに結晶や結石が存在する場合、エコーで特徴的な像が映ります。また結晶や結石で傷ついた膀胱粘膜(膀胱炎)を見つけるのが得意です。
この他尿管が詰まっていると腎臓が、尿道が詰まっている場合は膀胱がパンパンになっていたりするのですが、それを見つける事もできます。
レントゲン検査
ストラバイト結石の多くはレントゲンに写ってくれます。(結晶はかなりの量が必要です。)大きさや数、場所を正確に把握するのが得意です。
血液検査
獣医師の方針にもよりますが、元気なら必要性が低めの検査です。(もちろんするに越したことはありません。)元気がないなら、閉塞によって腎臓が急を要するダメージを受けていないかチェックするために行われます。
これら検査は獣医師で判断するものですが前もって知識を持っておくと、先生が検査を提案した時に理解がしやすく、スムーズに診察が流れると思いますので余力のある方はここも是非☆
ストラバイトの治療に関わる特徴2つ
治療の話に移る前に大切なお話としてストラバイトの特徴を追加でお話しさせてください。
- ストラバイトが作られるきっかけとなる持続的なアルカリ尿は細菌感染が関与している事がほとんど
- ストラバイトはPHが低い(酸性)状態で溶けやすい
この2点です。
①持続的なアルカリ尿は細菌感染が関与している場合がほとんど
前回の記事でストラバイトが作られる条件してPHが持続的に高い(アルカリ性)というのをあげました。
もちろん偏った食事の場合は、PHが持続して高いという事が起こります。でも多くは細菌感染が関与しています。
少しだけ詳しめに話すと、ウレアーゼという酵素を作る細菌がいるのですが、この菌が感染した場合、作り出されるウレアーゼによって尿のPHが上がるという事が起こります。
②ストラバイトはPHが低い(酸性)状態で溶けやすい
アルカリ性では作られやすいのですが、酸性になると溶けてくれます。
治療
ここでようやく治療ですね。大きく分けて外科と内科に分けられます。
外科
結石の場合に比較的多く選択されます。特に、急を要する場所に結石がある場合(閉塞を起こして動物の具合が悪くなっている)や、ものすごい数、ものすごく大きい結石があるなどの場合選択肢にあがります。
ストラバイトは溶かせる石ではあるのですが、溶けるまでの時間はその子によって様々です。(長い場合は1月以上かかるとかもあります。)
そんな悠長なことを言ってられない時は手術で結石を摘出し動物を早く楽にしてあげます。
内科
結晶の段階だったり、結石があっても小さい・少ないと言った場合に選択されます。内容は抗生物質と食事療法の二本柱です。
- 抗生物質
- 食事療法
抗生物質
抗生剤が必要なのは、先ほど述べた様に細菌が絡んでいる事が多いからです。抗生剤の種類は先生の経験から選択される事が多いですが、これが効いていないという事もあるので、効きが悪い、繰り返すと言った場合は尿培養をして適切な薬を出します。(これをしない先生が多い!)
食事療法
結晶・結石を溶かすために尿を酸性化させる様な食事だったり、原材料であるマグネシウムを抑えた様な食事が、各メーカーから発売されています。治療期には有効です。
再発防止・予防策
一番大切なところです。ここをちゃんとしていないと、結構な確率で繰り返します。そして挙句の果てには
なんてことを言われたり・・・。セカンドオピニオンや転院が起こりやすい分野です。正しい知識を付けて愛犬・愛猫を守って上げてくださいね。
ストラバイトに関しては
このような事がとてもよく起こります。この時、絶対にチェックしなければならないのが「感染」です。
感染が関与している場合
これには大きく分けて
- 尿路にいる菌を撃退しきれていない場合
- 撃退したけれどまた尿路に侵入している場合
①尿路にいる菌を撃退しきれていない場合
前回の検査や治療でもお話ししましたが、
耐性菌と言うのですが、ある種の抗生剤が効かない菌がいるのです。
このような場合闇雲に薬を続けたり、
本当に菌がいないかどうか、いたとしたらどの薬が効くのかは培養にかけることでわかりますから、これを実施していない場合は先生に培養検査をお願いしてみてください。
②尿路にいる菌を撃退しきれている場合
尿培養の結果、菌はいなかった。でも再発を繰り返す。この時は再感染の可能性があります。
再感染の元になるのは
a.尿路以外の体内から菌がやってきている場合
b.環境中の体外から菌がやってきている場合
a.尿路以外の体内から菌がやってきている場合
大体が口腔内からです。ずばり歯周病菌ですね。歯周病になっていませんか?歯磨きはちゃんと出来ていますか?
口腔内は雑菌の宝庫と言われていてとても細菌が多い場所です。歯周病がひどいと細菌は口腔内を出て全身性に症状を引き起こすことが知られています。
このような場合は、口腔内のケアに焦点を向けることで改善する場合があります。
b.環境中の体外から菌がやってきている場合
生活環境に細菌がいるケースです。一度生活スペースの徹底した環境消毒をする必要があります。
感染が大きく関与していない場合
それでも繰り返す場合は必ずと言っていいほど①水不足と②運動不足に分けられます。
- 水不足になっていないか
- 運動不足になっていないか
ここをチェックするようにしてください。
水不足
感染もそうですが、僕はそれよりも結石の原因のほとんどが水不足が原因だと考えています。
- 濃度
- PH
- 時間
と以前説明しましたが、水分摂取量がしっかり足りていれば①の条件は満たされず、結晶や結石は格段にできにくくなります。
この病気が冬場に多いのもこれを物語っていると思います。寒くなると喉が乾かず水を飲まなくなります。
方法としては、水に味を付けてあげたり、ウォーターファウンテンを使用したり。カリカリの場合はふやかしてあげるなど。
この他次にあげる運動量の引き上げも飲水量を増やすにはとても効果的です。
- 飲み水に味を付けてあげる
- ウォーターファウンテンなどのグッズを使う
- ドライフードの場合はふやかしてみる
- 運動量を増やす
運動不足
運動が足りないと全身への血流が乏しくなります。もちろん腎臓に行く血流も乏しくなります。結果作られる尿は少なくなり、トイレに行く回数も減ります。
このことから濃い尿が膀胱の中に貯められることが多くなるのです。①濃度③時間が揃ってしまうわけですね。
また運動不足になると水を飲む量も少なくなるのでやはり結晶ができやすくなってしまいます。
寒い季節は、動物さんも動きたがりません。結果運動不足となり、水もあまり飲まなくなって結晶や結石ができやすくなって行くのです。
これがしっかりとできていれば、よほどの場合でない限り療法食がなくても結晶や結石に悩まされることはなくなります。
問題はこれができるかどうか。今までの生活リズムを変える必要性も出てきたりで飼い主様の方に負担がかかることとなります。
まとめ
いかがでしたか?ストラバイトに関わる病気は犬猫ともにとても多いです。大切な箇所を見つめずにストラバイトを消すだけをしていると、再発を繰り返したり、いつかは大きなトラブルに繋がったり。
それらを防ぐ為に今回は少しボリュームが多くなりましたが徹底的に書かせていただきました。悩まれている飼い主様は是非この機会に
と今一度真剣に向き合っていただき、担当の先生を話し合ってください。
近藤先生、ご無沙汰しております❗森下モモでお世話になりました。キキがストラバイトの膀胱炎になり再発し通院中です。先生がこのような活動をされているのを昨日知り、またお元気そうでとても嬉しいです。とても心強く思いまたご相談させていただきたいです。よろしくお願いいたします
森下さん、お久しぶりです。ご連絡いただけてとても嬉しいです。今はこう言った少し特殊な形ですが、また皆さんのお役に立てればと考えています。キキちゃん大丈夫ですか?治療の方は順調でしょうか。こちらの記事がキキちゃんの回復や森下さんの安心に繋がれば幸いです☆いつでも気軽にご連絡くださいね。その時も全力でサポートさせていただきます!